今日はアメリカ独立リーグのエンパイアリーグでプレーした昨シーズン、野球人生で初めて経験したトレードについてお話ししたいと思います。
6月から始まったシーズンも後半に差し掛かった7月29日。いや、日付が変わって30日になったところでした。相部屋のリッキー(井神力)投手はもう寝ていて、ぼくもそろそろ寝ようかと電気を消したところ、滞在していた部屋のドアがノックされました。
ドアを開けると、ぼくたちの所属していたニューヨーク・バックス New York Bucksの監督であるエルネストでした。
“Did you check the league website?”
訳を尋ねる暇もなく、リーグのウェブサイトはもう見たか?と聞かれました。見ていないと答えると、
“You guys got traded. Thank you for playing for me.”
お前たちはトレードになった。今日まで一緒にプレーしてくれてありがとう、と言います。
何のことだかわからず、冗談だと思ってその場でウェブサイトを確認すると、”TRADE ALERT”の文字と共に”TAKERU SORITA”, “CHIKARA IGAMI”そして仲良しのピッチャーで遠征先へのドライブではいつも一緒だった”NELSON GARCIA”の3人が、一緒に目下リーグ最下位のアグアダ・エクスプローラーズ Aguada Explorersへトレードになったという発表がなされていました。
監督の後ろについてきた、フィルやマイクやフランクリンといった仲の良いチームメイト、もとい元チームメイトたちが次々とハグしてくれ、信じられないよ、新しいチームでも幸運を祈るよと言ってくれました。
ぼくはまだしも、リッキー投手は寝ていたところを叩き起こされてのトレード宣告だったので、なおさら意味がわからなかったことでしょう。眠い目をこすりながら、状況を理解するのに時間が掛かっていたようです。
その夜はリッキー投手と、なぜ我々がトレードされたのだろうかと話し合いました。2人とも少なからずショックで、それはチームトップとは行かないまでもシーズン終了時にはリッキー投手はリーグ3位タイとなる5勝、ぼくは打率.320という成績を残すほどの活躍をしていて、チームに必要としてもらっていると思っていたからです。
しかし2人で考えても答えは出ないまま、午前4時近くなってようやくその日は就寝することにしました。もしかすると、朝起きたらトレードは夢かも知れません。
果たして翌朝目が覚めるとトレードは夢ではなく、それどころかリッキーはアグアダ・エクスプローラーズ Aguada Explorersからさらにプラッツバーグ・レッドバーズ Plattsburgh Redbirdsへとトレードになっていました。
お互いここまでほぼ毎試合バッテリーを組んできて、バッテリーを組んでいない試合でもサードから配球の指示を出したり、普段の生活から組み立てやボールの軌道の話をしたり、あるいはピッチャー同士として変化球の研究をしたりと、このシーズン中は常に一緒にいたので、別々のチームになることをとてもとても寂しく感じました。
リッキーも、一緒にトレードになったときは悔しいけどここから一緒にもう一回頑張りましょうって思いましたけど、返田さんと離れるのはめっちゃ寂しいですと言ってくれていました。
その翌々日、午前中にエクスプローラーズでの2試合目を終えて滞在先の大学の寮へ帰ってくると、エクスプローラーズの監督、ジョーイにお前に電話だといって携帯を渡されました。
“How are you?”
電話に出ると、相手はリーグ副代表のジェリーでした。”Are you alright?”と聞かれたので、ここ2試合出場していないので本塁クロスプレーで痛めた腰を心配されているのかと思い、
“Yes, I’m alright.”
と言った後、翌日ピッチャーとして先発予定であることを伝えようとしました。しかし、ジェリーの意図はそうではありませんでした。
“OK. Puerto Rico Islanders needs a catcher. Do you want to play?”
現在シーズン2位のプエルトリコ・アイランダーズでキャッチャーとしてぼくを必要としてくれているという知らせでした。わかったと言って電話を切ると、事情を知ったコーチのジョーイが、笑顔で行って来いよと言ってくれました。車を運転してくれていたネリーにグランドへ戻ってくれないか?今からもう1試合プレーすることになったんだとお願いしました。
結局この試合はキャッチャーとして先発して、盗塁殺と2安打を記録しましたが、チームは敗戦。プエルト・リコの一員としてプレーするのもこの試合だけの予定だったようで、翌日にはまたエクスプローラーズに戻ることになりました。それでも人生初のトレードにまつわるこの数日間は、とてもエキサイティングなものとなりました。
そしてひとつわかったことがありました。ぼくだけでなくリッキーやエクスプローラーズにトレードになった他の選手たちも含めて、いい成績は残していても今のパワーや、スピードや、フィジカルで今年さらに上のリーグに上がるのは無理だと感じられる選手たちでした。
反対にトレードや新規獲得によりポストシーズンをプレーする機会を与えられた選手たちは、たとえ今シーズンの成績が良くなかったとしても潜在能力を感じさせるような、この力を持った選手が成績を残したら上のリーグに行けるだろうと思わせる選手でした。選手としてのスケールの大きさを感じさせる選手たちです。
元日本代表でダイエー、ソフトバンク、マリナーズ、ブルージェイズ、カブスでプレーした川崎宗則選手はぼくも大好きな素晴らしい選手です。しかし、メジャーのスプリングキャンプでホームランを打つなど誰よりも活躍していながら、開幕前に誰かをマイナーに降格させなければならないとなったときに名前が挙がってしまったことがありました。
メジャーレベルから見れば、たとえ不振だったとしても川崎宗則ではなくハヴィ・バイエズなのです。バイエズと比べられたら仕方ないと思うかも知れません。でもそれこそが、みんなが感じてしまうスケールの差なのだと思います。
こうしたスケールの大きな選手になるというのは一朝一夕にはできないことです。しかし、少なくともこれでぼくたちがトレードになった理由が少しずつ理解できてきました。理解ができれば対策の立てようもあります。
選手としてスケールの大きい選手。今のレベルで良い選手というだけではなく、打つのも、投げるのも、捕るのも、強く速くて、何か起こしてくれるのではないかとワクワクさせてくれるような選手。そういった選手になるためのアプローチを考えるウィンターシーズンにしよう、と思った初めてのトレードでした。
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